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松山地方裁判所 昭和37年(ワ)188号 判決 1965年9月14日

原告 稲荷泰子

右訴訟代理人弁護士 今井源良

右同 佐伯源

被告 橋本百合子

右訴訟代理人弁護士 木原鉄之助

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金三〇万円及びこれに対する昭和三七年五月三一日以降その支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

「(一)原告は被告から昭和三七年二月二七日、被告及び訴外楠田武夫共有の松山市築山町四八番地の四、宅地四四坪同四六番地の一宅地二坪二合一勺の宅地二筆に対し特別都市計画法に基き指定せられた換地予定地中被告使用中の部分及び同地上被告所有の建物を、右宅地については被告が当時使用中の地域範囲を特定しその地積が三二坪五合であるとその数量を指定した上、建物については当時それが朽廃の程度に近かったため代金中に算入しないことにして、代金一三五万円で買い受けた。そして代金は同年四月二日に完済した。

(二) ところが買受後原告が右宅地の面積を測量してみると、それは指定坪数より七坪二合三勺も少ない二五坪二合七勺しかなかった。もとより原告は右買受当時さような坪数の不足を知らなかった。

(三) そこで、原告は被告に対し本件訴状をもって右代金中数量不足分七坪二合三勺に相当する代金三〇万円の減額を請求する旨の意思表示を本訴状をもってし、右訴状は昭和三七年五月三〇日被告に到達した。よって原告は被告に対し右金三〇万円及び本件訴状送達の翌日である昭和三七年五月三一日以降その支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同趣旨の判決を求め、「原告主張の請求原因事実中、昭和三七年二月二七日被告が原告主張の宅地及び建物を代金一三五万円で原告に売却し、代金全額を受領したことは認めるがその余の事実は全部争う。右宅地及び建物の売買は、土地と建物とを一括しその全体の代金として一三五万円が定められたものであって、その際宅地について特に一定坪数があることを確保したものではなく、代金もその坪数を基準に算出して定められたものではない。すなわち右売買は被告が当時訴外楠田武夫と共有していた松山市築山町四六番地の一宅地二坪一合七勺、同四八番地の四宅地四四坪に対する被告の持分四九二一分の三二五〇に相当する宅地につき行われたものである。もっとも実際には当時右二筆の宅地に対して特別都市計画法に基き換地予定地指定処分が行われ、その予定地一部地上に右建物を所有して被告が使用していたので、その現地を原告に譲渡したという実情にあるが、持分に予定地そのものを目的とする売買は法律上なり立たないところであるから右売買は当然従前の宅地を目的とするものといわねばならない。そこで被告は従前の宅地に対する持分に相当するものとして宅地坪数を三二坪五合と表示し売買契約を結んだだけのことで、その表示で換地予定地の現地が同坪数あることを確保したものではない。なお換地予定地は将来変更されて縮少したり別の場所に指定し直されたりすることがあると考えられる土地であるから、さような土地の売主が買主に対し土地の坪数を指示するということはあり得ないことであるし、仮りに坪数を指示したとしても、将来変更の結果不足が生じた場合は前記計画法上清算金、減価補償金等によって後から関係者相互間の利害の調整が行われることになっているので、売主がその不足分につき買主に対し責任を負うべき限りでない。又被告はその持分を全部譲渡したのであるから、現実に使用の地域範囲がその持分の割合に符合しないものがあるとしても、買主の原告は持分権者として当然他の共有者に対し持分に応じた使用収益権を有するのでその権利を行使すれば足りることであって、売主の被告に対し坪数不足を主張すべき筋合のものでない。」

証拠として≪省略≫

理由

原告が昭和三七年二月二七日被告から原告主張の宅地、建物(本件宅地、建物)を買い受け、その代金一三五万円を完済していること、右宅地が被告外一名共有の松山市築山町四八番地の四宅地四四坪、同四六番地の一宅地二坪二合一勺の二筆の宅地(従前の宅地)に対し特別都市計画法に基き換地予定地として指定せられた宅地の一部であったことは当事者間に争いがない。

ところでかような宅地を目的とする売買は換地予定地自体あるいはそれに対する使用収益権の売買ではなく、法律上は従前の宅地についての売買(本件では共有持分の売買)と解すべきものである。しかし、だからといって売買当事者間で、現実の目的物件である換地予定地が特定している以上、その現地の坪数が当時幾何のものであるかを特に指示し、それを内容として売買契約を締結することが事実上も法律上も不能であるといえないことは勿論、実際にさような売買があり得ないものであるということもできない。

そこで右売買(本件売買)が坪数指示の売買であったかどうかの点について判断する。≪証拠省略≫を綜合すれば、前記従前の定地に対する換地予定地指定処分はすでに昭和三一年五月一〇日に行われていて、その共有者である被告と訴外楠田武夫は指定後の換地予定地の現地を事実上二つに区分して使用していたものであるが、その被告使用部分の宅地と同地上建物(本件宅地、建物)につき原告はその現況を検分し、権利証、登記簿謄本等の書類も被告から預って調査した上目的物件の範囲、状況につき納得の上本件売買契約を結んだものであること、もっとも当時本件宅地に都市計画が関係があることは原、被告双方とも知らないでその取引をしたものであること、その売買代金一三五万円は先ず売主の被告の方から申し出た価格一五〇万円を基準に買主の原告の希望を入れて値引を行い決定せられたものであるが、その被告申出価格は宅地、建物につき各別箇にその価格を割り出しそれを合算することにより算出されたものではなく、たまたまその頃他の一括買受希望者から同額の申出があったのでそれを手がかりに宅地、建物に対する一括価格として被告が取りきめたもので、当時まで被告は宅地の実測をしたことがなくその正確な実坪数は知らなかった実情にあること、他方原告の値引の希望も坪数、単価等の点から宅地の価格分が割高である等の事由を根拠に申し出られたものではなくただ総価格につき漫然資金不足を理由にその希望を出したものであったこと、原告の買受けの目的は建物を住居兼洋裁教室として使用するためであったので買受後原告はある程度建物に手を加え改造して使用している事実があるが建物の主要部分は現在でも朽廃の程度にあるとはいえないものであることが認められ、以上の認定に反する証人弓達佳の証言及び原告本人の供述中の一部はたやすく採用できないものである。してみると本件売買は宅地、建物の一括売買でその代金中には当然建物の価格も含まれ、従って宅地だけの価格はもとよりその坪当単価の取りきめ等は全く行われなかったものといわねばならない。もっとも≪証拠省略≫によれば、(1)被告は前所有者から本件宅地を坪当単価を取りきめて買い受けていること、(2)本件売買契約書中に本件宅地につき三二坪五合の坪数が明記されていること、(3)被告が本件売買契約の頃原告に対し本件宅地が三二坪五合あると発言していることが認められる。しかし右(1)の事実はその売買の目的物件が宅地だけで、しかもその売買契約の当事者も本件売買契約の当事者とは異っていることが右甲第五号証に徴して明らかである点から、又右(2)の事実は右甲第一号証中に右坪数の表示に続いて「及び家屋現状のまま全部」の記載があるのみならず、さような坪数表示がされた訳は被告が本件宅地を買い受けた際の売買契約書(甲第五号証)中にさような表示があったので、登記簿様式による正確な宅地の表示に代えて自己の買受地全部を原告に売る趣旨で記載したものであることが被告本人の供述から推測されるところである点から、いずれも前記認定を妨げるものではなく、更に右(3)の事実も被告が前記のように実測もせずに前所有者の坪数の表示だけを根拠にさような発言をしているところからすれば、その発言の趣旨は本件宅地の広さの見当を告げたに止まると考えられるので、以上(1)、(2)の事実と合せても前記認定を動かして本件売買が坪数指示の売買であったとの原告主張の事実を認めるに足りるものとはいえないし、他にこの主張事実を認めるに足りる証拠がない。

以上のところからその余の争点につきいちいち判断するまでもなく、原告の被告に対する本訴請求は理由がないことが明らかであるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本益繁)

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